東京高等裁判所 昭和26年(う)1631号 判決
没収が一種の附加刑であることは所論のとおりであるが、刑法第一九七条の四が収賄者又は悪意の第三者から賄賂の目的物を没収し又はその価格を追徴するのはこれらの者をして不法の利益を保持せしめないためである。全く犯行に関与しない第三者でも情を知りながら賄賂の目的物を収受すればその物に対する権利を失い又は価格を追徴されるのである。しかし何人にとつても、その財産権を失うことは極めて重大な関心事であるから刑法第一九七条の四所定のような条件を要することは理の当然であるが、これのみで充分なりや否やは所論のとおり疑問である。蓋し公益上の理由を重しとすれば、当該第三者をして公判廷において弁解その他防禦の機会を与えると否とはそれ程強い関心事ではないであろうが、個人の権利を尊重する正義感からは遺憾な点全くないとは断言できないからである。
しかし我が法律がかかる第三者の権利行使の規定等を設けていないからといつて、刑法第一九七条の四を空文に帰せしめることは相当でないし、原判決の執行が全く不可能であるとも考えられない。殊に本件においては原判決援用の証拠に照すと、判示町長又は組合の管理者である松井金蔵は証人として原審公判廷で取調を受けており、且つ同人の供述その他の証拠によると同人は本件寄附金名義の金員(判示寄附金とあるはかく解すべきものである)が、各判示のような賄賂である情を知りながらこれを収受したこと明白であるから必ずしも所論のような反対尋問権その他の権利行使の機会を与えなければならぬとは解せられない。のみならず、第三者のかかる権利行使を云々することは被告人の立場からは法律上何等の利益もないことである。
以上、いずれの点から考えても、原判決に破棄の事由となる違法あるとは認められない。
論旨はいずれも理由がない。
(註 本件は量刑不当にて破棄自判)
(弁護人控訴趣意第一点一)
原審判決は其の主文第一項及び第二項に於て
「普通地方公共団体吉井町(群馬県多野郡)より金九万六千五百円を追徴する。
普通地方公共団体吉井町外二ケ村隔離病舎組合より金四万九千五百円を追徴する」
として其の理由中に
「右団体の代表者松井金蔵が賄賂たる情を知つて寄附金として受入れた」と判示し其の証拠標目中に欠くべからざるものとして
吉井町長松井金蔵の証明書(甲第一号証)
検察官作成の右松井金蔵に対する供述調書
が挙げられています。
抑々刑事訴訟法に於て防禦方法を持たない訴外の第三者の利益が被告人のそれよりも一層厚く保護さるべきは刑事訴訟法の趣旨及び条理上より当然のことと云わなければなりません。而も追徴が没収刑に代るものであります以上第三者に追徴を科せんとするならば手続上その第三者の弁明を聴くべきは当然の筋合であります。
然るに前記松井金蔵の証明書及び検事調書は孰れも被告人に於て自己に関する証拠とすることに同意した文書ではありますが追徴そのものは被告人に対するものではなく訴外の第三者たる団体に対し其の効果を及ぼすものであることを考えますならば被告人の公判廷に於ける供述は被追徴者の反対訊問に曝さるべきものであるに拘らずその機会を与えず又証人として出廷した被追徴者たる両団体の代表者にして金員の受領者である松井金蔵に対し(一)賄賂性の知情に付訊問をなさず且つ(二)被追徴者の代表者として弁解の機会を与えず(三)被告人の供述及び供述調書に対する意見弁解を求めず(四)松井金蔵の警察に於ける供述調書を被追徴者に追徴の証拠とすることに同意の有無を訊ねず(五)且つ右調書を示すことさえもしないで直ちに訴外の第三者たる両団体に対する証拠として追徴の言渡をなしたのは前記刑事訴訟法の全趣旨に反するものと云わねばなりません。
従つて原審はその訴訟手続に法令の違反がありその違反は判決に影響を及ぼすことが明白でありますから原判決は到底破棄を免れないものであります。